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2018年に公表された「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会:DXレポート」(経済産業省、以下「DXレポート」)で示された「2025年の崖」。
政府機関としてのPEST分析(マクロ環境分析)レポートによる問題提起と言われていますが、ミクロ環境にあるビジネス現場ではまだ具体的なアクションにつなげられた動きが見えてきていません。
経営資源の「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が加わってから数十年、日本のCIOや情報システム部門の使命・ミッションに基づいて「今なすべきことは何か?」といったアプローチで考察してみます。
「DXレポート」の冒頭「1.検討の背景と議論のスコープ」の中でいきなり違和感のある一文が現れます。
各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)をスピーディーに進めていくことが求められている。
私たちはそれを、P.20になってはじめて登場する「データ活用」と読み取りました。
この図で問題視されているのは「データ活用できない」ことであり、そのために合理的な経営判断や意思決定が下せないのであれば、データ流通を担うCIOや情報システム部門は問題解決以前にその存在価値を問われていると読み取ることができるのではないでしょうか?
「データ活用できない」という大問題への対策を考える上での共通認識として、CIOや情報システム部門に共通するであろう使命・ミッションを定義づけてみます。
これをかみ砕いてみると、
・組織内外の人々が
・付与された権限に応じて
・最新の情報も過去の情報も
・いつでもどこでも簡単に
・アクセスできる状態を
・ローコストで提供し続けること
と言い換えることができます。
「DXレポート」が提言してくれたのはこのようなミッションの遂行を阻害する要因やその対策でしたが、見方によってはその内容が末端の戦術論に寄っていることで、戦略的な視点がおざなりになってしまっているという評価を聞くことが少なくありません。
経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の意図がどこにあったのかはわかりませんが、「DXレポート」に触れたとある経営者からお聞きした見解を要約すると前図のようなものでした。
さらにその経営者は辛辣な見解を述べています。
「IT業界や情報システム部門は本当にモグラたたきが好きだよね。
毎年、毎年新しいキーワードをひねり出してはお金を使わせようとするんだけど、いつも主観的で効果検証できないようなことばかりで全然データドリブンではないし、結果的に部分最適で目先の作業をこなしているだけという印象を持ってしまう。」
これを聞いて思い出したのが、とあるグローバル製造業の幹部の方による「経営ガバナンス」に関する講演でした。
講演で紹介されていた経営ガバナンスの考え方は、グローバルHQ(本部)としての経営戦略:全体最適に対し、経営資源ごとの個別最適な財務戦略~人材戦略~マーケティング戦略~情報戦略があり、さらにそれがリージョンHQ(地域別)~ローカルHQ(国別)に受け継がれ、バックエンドからフロントエンドに対して戦略~戦術が繰り返される形で統治されているというものでした。
筆者が聴講メモをまとめた後に作成した図にしてご紹介します。
まるでMBAカリキュラムのケーススタディを見ているかのような統治機構図ですが、このように真似しやすい・普遍性のありそうな戦略論であっても競争優位を維持し続けられる理由としては、「部分最適やサイロはどの組織にもあるが、それを受け入れない・あったとしても排除できる文化・風土が継続的な強さの源泉」と紹介されていたことが印象的でした。
「DXレポート」で言及されているように、メインフレーム主体のスクラッチ開発やクラウド主体のアジャイル開発はあくまでも戦法論なのであって、そのレベルで部分最適をつくり続けることの方が悪であると言い換えることができます。
また、講演の聴講者からの質問として、「なぜこのようにシンプルな統治機構で収益を上げ続けられるのか?」という問いがありました。
それに対するコメントは、「世界地図全体を網羅するようなリージョンそれぞれの地域性に配慮したグローカルやダイバーシティが企業文化として根付いているのでスキルの高い人材が各地からどんどん現れると共に、産業財と消費財というまったく異なる顧客層それぞれとの効果的なコミュニケーションなど、市場のとらえ方が複雑であればあるほど、経営ガバナンスはシンプルな方が浸透しやすいという考え方がある。」とのことでした。
さらに付け加えるなら、「この統治機構は何かに似ていると思いませんか?素人目に見ても、アメリカの連邦政府と州政府もこれに似たような統治機構になっているのではないでしょうか?」というコメントには会場が大きくどよめいたことを覚えています。
もう一つ、特に興味深かったのが、意思決定機関の運営方法です。
忙しいボードメンバーが全員顔をそろえる機会は極めてまれでテレビ会議(今ならビデオチャット)で参加するメンバーが必ずいることは容易に想像できると思います。もちろん、配布資料などはなくスケジューラーに記載されたアジェンダがあるだけで、全員が同じ経営ダッシュボード(BIツール)を見ながら次々と意思決定を下していくそうです。
この経営ダッシュボードに具現化されているように、意思決定は常にデータドリブンであり、疑義のあるデータについては誰もが自由にドリルダウンして深掘りでき、すぐに異常値が発見されるので現場のマネージャーたちはいつも冷や冷やだそうです。
この講演を拝聴したのは2000年代の中盤頃、日本市場では"クラウド"という言葉がそれほど流通していなかった15年ほど前の環境です。
当時はそれなりのコストをかけたITインフラなのでしょうけど、迅速で的確な意思決定が下せることのメリットからすれば、投資対効果ありと判断されたのでしょう。
参考までに、前述のグローバル企業の経営層に共通したマネジメントスタイルは下記の3つ、それぞれ日本のビジネス用語(?)に翻訳しておきます。
・Data is King (データドリブン)
・So What? Why So? (なぜ5回)
・Management by walking around (事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ。)
「DXレポート」で示された「データ活用できない」という大問題に対し、情報システム部門を取り巻く全体最適・個別最適の考え方を例示してみましたが、では実際の現場ではどのような観点で「2025年の崖」なるものに立ち向かえばよいのでしょう?
まずはじめに現状の姿として、企業内情報システムをデータの概念で一般化して構成要素を図示してみます。
一見するとこの構成図は完成形のように見えますが、「データ活用」という視点で見ると話は変わってきます。
各システムはプライベートネットワークに接続されているだけで個々のシステムのデータを参照するには個別のユーザーインターフェースがあり、そこに部分最適・サイロの問題が生じます。
例えば、何らかの定型レポートを作成・更新するのに少なくとも2つか3つの画面を開いてデータを取得するようなオペレーションが存在しているのであれば、部分最適の集合体と呼ばざるを得ないのではないでしょうか。
また、「DXレポート」の中で「2025年の崖」として具体的に言及された問題は以下の3つに要約できます。
・基幹系システムの中核にあるメインフレームやオフコンの老朽化
・専門スキルの陳腐化
・SAP ERPのサポート切れ(EOS/EOL)
部分最適の集合体になってしまっている情報システムの構成要素一つひとつにフォーカスし、レガシーシステムの移行やアプリケーションのアップグレードという対症療法=モグラたたきを繰り返すことが、全体最適に紐づいていると考えるのは難しいのではないでしょうか。
もう一つ注意が必要なのは、IT業界に顕著なサイロ発想の象徴とも言える“攻めのIT”や"守りのIT"という捉え方でしょうか。
「2025年の崖」に例えるなら、前述の3つの対策は"守りのIT"に括られるかと思いますが、「ならばうちは"攻めのIT"だ!」と短絡的に考えてしまうことは避けたいところです。
その場合は一息入れて、"攻めの財務"や"攻めの人事"と置き換えてみられることをお勧めします。
何のことか、何をしようとしているのか、誰から頼まれたのか、皆目見当がつかないのではないでしょうか。
自らの組織をSection:区分と矮小化して捉えるのではなくFunction:経営戦略上の機能と捉えれば、"攻めの〇〇"という言葉が意味をなさないことは容易に想像できますし、求められる機能を正しく定義付けて進化させていくことをミッション設定の前提と位置付けてみてはいかがでしょう。
改めて、CIO・情報システム部門の普遍的なミッションを思い返してみましょう。
正確な“情報”とその流通手段を迅速かつローコストで提供すること
このミッションを速やかに具現化する戦術・戦法として、私たちがまず提案できるのは「データ連携基盤の常設」です。
経営資源の一つである「情報」すなわちデータを迅速かつローコストで取り出せるようにする、ETL:データ連携ツールの「Waha! Transformer」を導入していただくことです。
部分最適の集合体となっているプライベートネットワークにETL:データ連携ツール「Waha! Transformer」を導入すると、ERPはもちろん、メインフレームやオフコン、Excelファイルに至るまで、異なる形式のファイルや文字コードを変換・加工して、経営ダッシュボードに代表されるBIツールやExcelファイルに必要なデータを送出・配信できるようになります。
部分最適の集合体だった情報システムがシームレスにデータ連携できるようになることで、全体最適に紐づく個別最適な情報流通インフラとして生まれ変わることができるのです。
ETLの機能など詳細は割愛いたしますが、メインフレーム・ホスト環境のオープン化をトリガーとした導入事例が公開されていますので、一部抜粋してご紹介いたします。
「DXレポート」で言及されたレガシーマイグレーションですが、ほぼ10年前に検討を開始・実行されたのが中部電力様です。
メインフレームからRDBへの基幹システム移行に際して、下図のようなデータ処理を「Waha! Transformer」が担いました。
「
「Waha! Transformer」を利用する際に非常に多くのツールや、ジョブ(Waha! Transformerで作成する処理の流れ)のテンプレートなどを組み合わせることにより、基幹システムからのデータ移行工数を劇的に削減することができています。
基幹システム上の大量データも「Waha! Transformer」の特徴でもある高速処理により瞬時に加工されます。以前はExcelでの手集計やマクロ、手組によるデータ移行プログラムの作成などで対応していましたが、それに比べ約50%の工数削減を見込んでいます。
」
すっかり長文になってしまいましたが、ここまで読み進めていただきありがとうございました。
「2025年の崖」という問題提起に触れたことをきっかけに、改めてCIO・情報システム部門のミッションについて考える機会をいただけました。
過去に情報システム部門に在籍していた頃、部分最適やサイロの塊、モグラたたき、箱モノのお守り役、挙句の果てには「事業成長のボトルネック」などと罵倒されたことを思い出してしまいました。
当時は、「情報工学を専門に学んだわけでもない自分(事務屋)にそんなこと言われても。。。」と言い訳・逃避しているだけでしたが、今になって考えてみれば、そんな事務屋さんたちのお悩みを解消してあげればよいというシンプルな役割に思いが至りました。
かつて、メインフレームのお守りをしていた「EDP:電算システム部」が、90年代以降オープン化の流れで「IS:情報システム部」と名前を変えたものの、ミッション自体は変わっていなかったんだと振り返ることができたのです。
ならばと捻り出したのが、「データマネジメント部門」というアプローチです。
「DXレポート」にあるように、日本の情報システム部門に専門スキルを持ったIT人材が少ないのは、新卒一括採用によりゼネラリストの育成に比重が置かれていることは明らかですから、そんな人材に専門スキルを持たせても全社標準の評価制度とコンフリクトが起きることは容易に想像できるので、ITエンジニアの採用を選択肢に入れること自体が難しいのではないでしょうか。
でも、ゼネラリストならデータを読み取ることは必須スキルと言えるので、若手のうちから「Data is King」を身につけて、システム運用に付随してリサーチャーやデータアナリストとしてキャリアを重ね、データコンシェルジュと呼ばれるまでに育ってくれればこんなにありがたいことはないでしょう。
CIO自らが「データ・コンシェルジュ」のロールモデルとなって引っ張っていく情報システム部門なら、コストセンターからプロフィットセンターへの大変革が果たせるのではないでしょうか。
とくに革新的な取り組み(攻めのDX)への意欲や意識の高さについて、ポテンシャルが高いのはサービス業であった。 サービス業と一口に言っても、さまざまな業種の企業が混在しており、サービス業内でもDXに対する温度差はある。運輸や建設業、医療分野などでDXへの取り組む意欲が高いが、飲食業はSNSを活用したマーケティング、集客やキャッシュレス決済などに留まっていることが多い。日本は「2025年の崖」に落ちるのかーー世界のDXリーダーに共通する6つのアプローチとガバナンスの課題 | AMP[アンプ] - ビジネスインスピレーションメディア 2020-11-19
「DX=IT化」とも思われがちだが、DXはAIやIoTといったデジタル技術を導入したら完了するものでは全くない。組織構造や人材育成、マインドセットといったマネジメント面や、ガバナンス面においても取り組むべき課題が数多く存在し、それらが結びついて企業の在り方やビジネス自体を変革していくものだ。DX に惑わされる 日本企業たち:沸き立つ経営層と冷やかな現場、いかにギャップを埋めるか? | DIGIDAY[日本版] 2020-11-19
DXというバズワードをきっかけに経営層がデジタルに目を向けるようになったことは良いことでしょう。一方で、言葉がひとり歩きしてDXという方法が本来の目的とすり替わり、DX推進自体が目的となってしまう弊害もでています。また、とりあえずやってみようとDXを進めた結果、時間やリソース、お金を無駄にして失敗に終わった例も多い。私も同様の経験をしましたが、思い返すと問題は準備段階以前にあったのです。2021年度の税制の目玉の一つ「DX投資促進税制」、メリットを得るには何をするべきか? (1/3):EnterpriseZine(エンタープライズジン) 2021/05/10
上田:D要件として「データ連携・共有」「クラウド技術の活用」「DX認定の取得」の3つ、X要件では「全社の意思決定に基づくものであること」「一定以上の生産性向上が見込まれること」の2つを全て満たす必要がありますから、DXに全社的に取り組んでいる企業のみが対象となる税制だと思います。4月時点では計画申請書の内容が公開されておらず、詳細が明らかになるのは5月以降ですが、過去の税制から考えると、比較的いろいろな項目を記載することになるでしょう。申請書作成にあたっての最初のハードルは、D要件の1つであるDX認定取得だと考えています。すでに取得している企業は別として、これからの企業にとってはこの認定取得が必須です。
執筆者情報:
ユニリタ Waha! Transformerチーム
株式会社ユニリタ ITイノベーション部
PM・SEに限らず多様な経験・知見を持ったメンバーが、「データ活用」という情報システム部門の一丁目一番地でお役に立つべく集められました。
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