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情報システム部門の本質的な役割:労働生産性向上への基本戦略は“機械化”と“自動化”

※本トピックは、withコロナ収束間近と言われる2022年1月に公開しました。
当サイト恒例の質問からで恐縮です。
皆さんが所属されている組織では、withコロナ真只中にあった2020年度の労働生産性は、前期比で向上していたでしょうか?あるいは低下していたでしょうか?
あくまでも参考として、製造・小売・銀行各業界の著名企業について、公開されている有価証券報告書に掲載されている営業収益と従業員数をもとに比較してみましょう。

御社の労働生産性は?
もう一つ、筆者が過去職で、BPO:Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスベンダーに在籍していた時代のモデルケースをご紹介します。
アウトソーシングサービスを受託する際には、最初の調査・設計フェーズで対象業務(プログラムと呼びました)のアセスメント:現状分析および定量・定性評価を行います。
顧客(クライアントと呼びます)とプログラムのビジネスゴールを定義・共有・合意した上で、その実現に向けたシナリオ ~ オペレーションフロー ~ スクリプトなどのマニュアル類を設計・ドキュメント化しますが、ビジネスゴールの達成を定量評価できるように、プログラム全体の KGI:Key Goal Indicator(重要目標達成指標)および付随するオペレーション分野ごとの KPI:Key Performance Indicators(重要業績評価指標)も算出します。
KGIについては、対象プログラムがプロフィットセンターであれば収益額や率を設定すればよいだけですが、コストセンターの場合はクライアント自身が KGI を持っていないことがほとんどであり、そこで提案するのが労働生産性でした。
アウトソーシング≒人的作業を外部委託する以上、業績向上にポジティブなインパクトを及ぼす必要があるはずで、クライアント社内で人事異動があるプロパー人材だけでは実現できないであろう成果を提供できなければ、BPOベンダーとしての存在意義を問われてしまうからに他なりません。
調査・設計フェーズから対象分野の専門家:ディレクター(PM・SE的な役割)がアサインされ、チームとしてプログラム運営にあたりますので、ただ惰性で作業を流していくのではなく、自社に蓄積されているノウハウがてんこ盛りになったサービスメニューやツール類を駆使して、人的作業の標準化~機械化~自動化をゴリゴリ推進していくわけです。
そうすると、早ければ2年から3年でクライアントへのノウハウ移転まで果たせますから、体制が作れるクライアントは内製化への移行を希望されBPO契約自体は打切りになります。ただ、さらにその数年後にはギブアップされてBPO復活というケースも少なくありませんでした。
製造業におけるファブレス経営しかり、選択と集中を進めれば進めるほど「餅は餅屋」であったり「適所適材(適材適所ではない)」の必要性が明らかになってくることが理由ですが、アウトソーシングをうまく機能させるには、労働生産性のように KGI と呼ぶに相応しいゴール設定が肝要と言えるでしょう。
本トピックは、当サイトの人気コンテンツ『RPAを導入しても成果が出せない組織がはき違えている「生産性」というマジックワード』および『CIO・情報システム部門のミッションに関する考察』それぞれの続編としつつ、2021年12月に相次いで報道された生産性関連の国際比較を受けて、当サイトやセミナー等で取り上げている「労働生産性」向上に貢献するための「第四次産業革命」へのアプローチなどから深掘りしてみたいと思います。
※当サイトでは「労働生産性=付加価値生産性」とし、「従業員個々人レベルの作業効率:ライフハック」とは別のものと位置付けています。
※付加価値は「粗利」としていますが、便宜的に売上・収入で代替する場合があります。
目次
情報システム部門に期待されていたのは労働生産性:labor productivity 向上への貢献
日本の産業界では60年代の銀行オンラインシステムを皮切りとしてメインフレームやオフコンをはじめとするコンピューターの導入:IT化が徐々に広まり、電算システム部と呼ばれる本社部門が新設されていきましたが、当時の経営層がITに期待していたのは「労働生産性向上のリード役」だったのではないでしょうか?

情報システム部門に期待されていたのは労働生産性:labor productivity 向上への貢献
その期待は50年を経た現在でも変わることはなく、人口減少社会を迎えたことで尚更強まっているはずです。
ところがどっこい、2021年の年の瀬に相次いで報道された国際比較ランキングは惨憺たる結果となってしまいました。
日本の労働生産性、1970年以降で過去最低ランク――労働生産性の国際比較2021:EnterpriseZine(エンタープライズジン) 2021-12-20
2020年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は、78,655ドル(809万円)。ポーランド(79,418ドル/817万円)やエストニア(76,882ドル/791万円)といった東欧・バルト諸国と同水準だった。西欧諸国と比較すると、労働生産性水準が比較的低い英国(94,763ドル/974万円)やスペイン(94,552ドル/972万円)にも水をあけられているという。また、前年から実質ベースで3.9%落ち込んだこともあり、OECD加盟38カ国でみると28位(2019年は26位)と、1970年以降最も低い順位だとしている。
1人当たりGDP、日本はOECD38カ国中19位: 日本経済新聞 2021-12-25
2020年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は、78,655ドル(809万円)。ポーランド(79,418ドル/817万円)やエストニア(76,882ドル/791万円)といった東欧・バルト諸国と同水準だった。西欧諸国と比較すると、労働生産性水準が比較的低い英国(94,763ドル/974万円)やスペイン(94,552ドル/972万円)にも水をあけられているという。また、前年から実質ベースで3.9%落ち込んだこともあり、OECD加盟38カ国でみると28位(2019年は26位)と、1970年以降最も低い順位だとしている。
20年度の実質GDPは4.5%減と、リーマン・ショックがあった08年度(3.6%減)を上回る落ち込みとなった。新型コロナウイルスの感染拡大で個人消費、設備投資、輸出がいずれも落ち込んだ。名目GDPは3.9%減だった。
第四次産業革命が示した「知的労働の機械化・自動化」にフォーカスしてみる
蒸気機関の発明による産業革命が歴史の教科書に載っていたことを記憶されている方は少なくないはずですが、第一次から第四次まで変遷をたどっていることをご存知の方は、どれぐらいいらっしゃるでしょうか?
産業革命の変遷
| 焦点 | 主な影響範囲 | 主たる資源 | |
|---|---|---|---|
| 第一次産業革命 | 軽工業の機械化 | 繊維 | 石炭/蒸気機関 |
| 第二次産業革命 | 重工業の機械化 | 鉄鋼、化学 | 石油 |
| 第三次産業革命 | 組み立て産業の機械化・自動化 | 自動車、電機 | 電力 |
| 第四次産業革命 | 知的労働の機械化・自動化 | 全産業・公的機関 | 半導体、AI、RPA |
| 第五次産業革命? | スマート?エコ?バイオ? | 全人類? | 地球由来? |
第一次については米国の綿花農場や日本の富岡製糸工場が思い浮かびますし、第二次から第三次の間にあった大量生産から多品種少量生産への変遷については、日本の高度成長~バブル期と捉えるとわかりやすいですね。

第四次産業革命が示した「知的労働の機械化・自動化」にフォーカスしてみる
ただ、前述した「円安誘導」は第三次産業革命までの政策のはずであり、「組み立て後の完成品は輸出しているが原料や資材の多くは輸入している」ようにサプライチェーンがグローバル化した現在においては、実際に経済効果があるのかないのか微妙なところは否めないのでしょう。
合わせて、今ではガラパゴス文化と言われる新卒一括採用や年功序列型賃金は、農山漁村の労働力を都市部の建設現場や生産ラインに移動させる第二次・第三次産業革命時代に最適化された労働力の供給施策だったはずですから、高度成長を終えて成熟期に入った日本市場にはなじまなくなっていることも確かでしょう。
さらに、withコロナの間に顕在化した「半導体不足」は、せっかくの円安誘導で擁護したはずの自動車・電機分野の生産ラインを止めてしまうほどのインパクトがあったことを見ても、「デジタル敗戦」どころか産業革命レベルで時代遅れになってしまった日本の現状は残念と言わざるを得ないのでしょう。
そんな状況を見越したわけではないのですが、2021年10月に開催した年次カンファレンス「Waha! Day 2021」の主催者メッセージを抜粋して紹介いたします。
データ活用人材の祭典「Waha! Day 2021」 主催者メッセージ
人口減少社会における労働生産性の向上が国家課題となってはや十数年、「女性活躍」や「働き方改革」、「副業解禁」といった政策が打ち出されてはいるものの、肝心なビジネス現場に変革が起こせない限り、国民一人あたりGDPが世界25位あたりをウロウロしている状況は、一向に改善されることはないのではないでしょうか。
私たちはそのような問題意識から、今年のイベントテーマを設定しました。
~データ連携の先にあるイノベーションの“タネ” ~
時間が許す限り働いて・稼いでいた時代は終わり、限りある時間の中で、最適解をアウトプットするために工夫を繰り返す。
そんな時代のど真ん中を、データ処理の標準化・機械化・自動化によるデータ活用、データドリブン経営という切り口で、ご一緒させていただきたいと考えております。
ここにも登場する「標準化~機械化~自動化」は、産業革命を進化させてきた人類が編み出した知恵の結晶であり、第四次産業革命の真っただ中にある現代でも、その対象を生産ラインから知的労働:デスクワークに拡張させるだけで、そのまま通用するものと理解しています。
例えばトヨタ生産方式:カイゼンは、生産ラインとその周辺の作業標準を徹底的に磨き上げ、臨機応変に改善・最適化し続けることで、企業文化・風土にまで高められたものと言えるでしょう。
Google の検索エンジンは、ユーザーの検索意図の近似値を提供するために標準化・機械化されたアルゴリズムを磨き続け、クローリング~インデクシング~クエリーインターフェースといった工程の機械化:ボット化を含めて、検索体験の効果測定と改善プロセスまでをも自動化させたことでイノベーションを起こしました。
Windows 95 の発売が契機と言われるITバブル・IT革命は、鉄鋼や自動車産業の衰退に代表されるような米国経済復活の起爆剤になり、産業間の人材シフトなどと相まって、第四次産業革命への移行が自然発生的に進んだように見えます。 一方の我が国は、パソコン減税のように部分最適な政策はあったものの、まるで第三次産業革命期に留まろうとするかのような「モノづくり」神話が吹聴され、そのまま円安誘導を続けてきました。
その25年後の現在、労働生産性や一人あたりGDPでは先進国というカテゴリーから脱落の危機にあり、極東アジアでも韓国や台湾にその地位が取って代わられる日もそう遠くないと言われるような状況に陥りつつあります。
そんな長期低落傾向を脱するために、あるいは時代遅れの工業化社会から高度情報化社会への進化を果たすために、DX:デジタルトランスフォーメーションという戦術を選ぶことは、上位にある成長戦略次第であるかと思います。
ただ、上位の戦略が描けないままに名前だけ「DX」と付けてみても、肝心な Transformation:事業変革が起こせなければ、ITによくある「屍の山」が積み上がるだけになってしまう恐れがあります。
ならば、かつての「ペーパーレス」に代表されるような情報システム部門の得意分野であるはずの「機械化・自動化」に焦点を絞って第四次産業革命に追いつくと共に、「いざ!DX」となった場合の事前準備としても、臨機応変かつ柔軟に対応できるのではないでしょうか?
AI・RPA導入を目的化せず「知的労働の機械化・自動化」を愚直に推進する

AI・RPA導入を目的化せず「知的労働の機械化・自動化」を愚直に推進する
第四次産業革命の主な資源として AI や RPA を記載しましたが、それ以前の電力や石油などの時代と異なるのは、それらのコトバがバズワードとなってしまっていることでしょうか。
その結果、
「ウチもAIを使って何ができるか考えてくれ」
「RPAを導入すれば事務スタッフを削減できるそうじゃないか」
「そうすれば、ウチもDXやってることになるんじゃないのか」
といった天の声やツルの一声が会議室で飛び交う様子は、多くの組織で垣間見られる日常風景かと思います。
そんな声が身近で聞こえてきたとしても、責任ある社会人の私たちは「面従腹背」してはいけません。 AI や RPA の得意なこと・不得意なことと自分たちの事業へのマッチング度合いを整理し、「知的労働の機械化・自動化」という基本戦略のもとビジネスプロセスをデザインし直していく中で、「是々非々」で積極推進していくことを声の主に伝えていけばよいのではないでしょうか?
幸いにも、withコロナによってテレワーク:在宅勤務(work from home)が一般化したことで、ビジネスコミュニケーションにおける機械化・オンライン化のハードルは一気に低くなりましたし、実際に手を動かし汗をかいた情報システム部門の声も通りやすくなっているはずです。
COVID-19という未曽有の危機の中で得られたこのような機会を、労働生産性向上への貢献を目指す上での千載一遇のチャンスと捉えれば、この1年は機械化・自動化の対象領域を洗い出し、優先順位を含めた実行計画を策定してみるのはいかがでしょう?
その第一歩としては、多くの企業に共通するであろう下図のようなビジネスプロセスの中で、すでに標準化されているデスクトップ上の定型作業を洗い出してみるのがよいのではないでしょうか。
ビジネスプロセスの中で、すでに標準化されているデスクトップ上の定型作業を洗い出してみる
上流(と言いながら顧客からは遠い)調査・企画工程は、知的労働の総本山と言えそうな非定型作業の塊でありそうなことから、そのように標準化の難易度が高そうな領域は機械化・自動化の最後の砦として、リストの一番下に記録だけしておきます。
一方で、製造および販売・保守工程(下流ほど顧客に近いので「DX」っぽくもある)については、例えばExcel帳票の数値だけ更新するような日次~月次の定型デスクトップ作業が、組織内外のあらゆるビジネス現場で発生しているのではないでしょうか。
特に、受発注業務や立替え経費の精算における伝票処理などは、ほぼ確実に標準化されているはずですし、付加価値:業績に直接インパクトする工程でもあることから、真っ先に取り組みたい分野でもあります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」は、2020年の「DXレポート2」、2021年の「DXレポート2.1」と続き、2022年には「デジタル産業への変革に向けた研究会」へと引き継がれているようです。
デジタル:インターネット・テクノロジーの活用と解釈してみれば、経済産業省所管のIT業界と総務省所管のICT業界との境界にある「インターネット業界」を取り込もうとするかのようなネーミングには一抹の不安はあるかと思います。
【再掲】わりと知らないIT産業マップ
そこはポジティブに捉えて、労働生産性や一人あたりGDPの向上による税収増という成果物が得られるなら、せっかく立ち上がったデジタル庁などとも歩調を合わせて、官民問わず前向きに取り組んでみたいものだと思い新たにした次第です。
【提言】労働生産性向上の目安は1.5倍でいかがでしょう?
長文にお付き合いいただいた御礼まで、公開されたデータのチャートを掲載しておきます。
公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」PDFを筆者集計
私たちの当面の目標となりそうな2020年のランキング10位:スウェーデンは78.9ドルでしたから、49.5ドルの日本と比べて1.5倍強の「稼ぐ力」があると見ることができます。
まずはトップ10入りを目指すとして、所属組織の労働生産性を1.5倍に高める方策を考えてみようではありませんか。
そのためにできることは、人員削減は無理だとしても社員一人ひとりの年間総労働時間を減らすと共に、減った労働時間の中で得られる年間収益を1.5倍に近づける製品・サービス開発に取り組むことでしょう。
その間にもし、1ドル・115円を超えてしまったドル円相場が110円や100円の円高に振れてくれたら、その差額は国際比較する時の円高ボーナスとなって還元されるはずですから、トップ10どころかトップ3入りも夢ではないはずです。
最後に、本トピックを草稿する中で参考にした内閣府の文書がありますので、参考にしたニュースなどと合わせて紹介させていただきます。
白書等(経済財政白書、世界経済の潮流等) > 日本経済2016-2017 > 目次 > 第2章 > 第1節 第4次産業革命のインパクト
こうした第4次産業革命の進展は、生産、販売、消費といった経済活動に加え、健康、医療、公共サービス等の幅広い分野や、人々の働き方、ライフスタイルにも影響を与えると考えられる。
超スマート社会では、企業は様々な情報をデータ化して管理することで、生産効率の改善、需要予測の精緻化、取引相手を含むサプライ・チェーンの効率的運用を図ることができることに加え、データの解析を利用した新たなサービスの提供、AIを活用した事務の効率化や新たなサービス提供などが実現できる。








