「IT 推進をする部門長には『電子カルテを起動すると、その日の朝の段階での病棟ごとの稼働率を表示するようにします』と内諾はとっていましたが、一般の医師や職員にとっては、ある朝、突然、業務のためにカルテを起動した瞬間に、グラフが目に飛び込んできたことになります。導入当日の業務開始時間は、病院全体がザワザワしていた。(笑)」と間中氏が語るように、単に「見える」という状態にしてあるのではなく、強制的に「見せる」というしくみは、同病院の職員にとって大きなインパクトを与えました。
リアルタイムでの数値が共有されたことをきっかけに、ベッドの空きを待っている患者に対し、優先的に入院を勧めることができるようになるなど、病床稼働率が改善。「見える化」された月から稼働率が上昇し、対前年度比では2.2 ポイントUP(売り上げにして2 億円)となり、結果、『Waha! Transformer』と『Dr.Sum EA』への投資の回収も短期間で実現しました。
佐藤氏と間中氏は、経営指標の可視化に続き、様々な分析とビジュアル化を進めました。中でも、他の病院ではなかなか実現できていない分析の例が、「糖尿病患者の精細な分析」や「看護必要度のシミュレーション」です。
糖尿病の患者の、本当の実態把握は、実のところ困難だといいます。というのも、電子カルテで糖尿病に分類されている患者を抽出しても、糖尿病と疑わしいために検査を行った数値等も含まれるため、正確に糖尿病患者数を導き出すことは困難でした。
越谷市立病院では『Waha! Transformer』を活用することで、検査の実測値をもとに糖尿病患者数を導き出したうえで「●●という薬を服用した人数は?」「そのうち検査数値が変わったのは何人?」など、正確な元データをもとに、医療現場での指標となる数値の分析が行えるようになりました。 「内科の医師からの依頼で分析を行いましたが、データを出したところ『え?本当にそんな分析できたの?』と言われて…。ダメもとでのオーダーだったようですが、『その分析ができるなら、こんな条件の場合は?』と次々とリクエストされました。従来は、どのようにすれば分析できるかがわからなかったことでも、やってみると瞬時に分析できます。9,300 万レコードというような膨大なデータなのに、止まらずに動いているのがすごい」と佐藤氏は強調します。
看護必要度のシミュレーション
診療報酬改定毎に行われる、紙ベースの帳票による手作業でのデータの収集とシミュレーションを廃止。 電子カルテに、改定により新設されたものや変更があった項目だけを追加し、日常業務上で記入してもらうことで、看護必要度の集計を自動化して、診療報酬改定後の状況をリアルタイムでシミュレーション。
糖尿病患者の精細な分析
9,300 万レコードの膨大なデータから糖尿病患者の正確なデータを抽出。 さらには「●●という薬を服用した人数は?」「そのうち検査数値が変わったのは何人?」など、正確な元データをもとに、医療現場での指標となる数値を分析。
また、「看護必要度のシミュレーション」は、経営に大きな影響を与える数値ですが、各病院とも手作業で苦労している分析にあたります。
「入院収益に大きな影響を与える入院基本料の基準に、入院患者の病状や看護の手間などを数値化した看護必要度というものがあり、2年に一度行なわれる診療報酬改定では、この数値を導き出す項目や基準が変更になります。改定時期には、この素案が示された段階から改定後の状況をシミュレーションしますが、一般的には各病棟に紙ベースの帳票を配布し、その日の患者の状態を手書きで記入してもらい集計する…というフローが必要になります。越谷市立病院でも、以前は同じ方法をとっていました。しかし、現場に対する負担も大きいですし、集計にも手間がかかるため、1 週間や2 週間と期限を決めて集計を行い、おおよその数値を把握する…という正確性に欠けるものでした。
毎日の実情を把握し、将来的なシミュレーションを行うために、既に導入されていた電子カルテに改定により新設されたものや変更があった項目だけを追加し、日常業務上で記入してもらうことで、看護必要度の集計を自動化するようにしました。数億円規模の診療報酬の増減は、経営に大きな影響を与えますが、従来の方法では、結果として改定が適用される新年度が始まってみないと判断できないものでした。当病院ではシミュレーションによる数値化で、年度終わりの2 か月前には指標を達成できる手ごたえを持っていました。万一、目標数値に届かない時には、経営側は収益確保のための新たな方策を早くから検討することができます。」(間中氏)
電子カルテの改修自体は、他の病院でもさほどハードルは高くないものですが、シミュレーションが行えるのは、『Waha! Transformer』と『Dr.Sum EA』の連携があってこそ。この点で、他の病院では実現できない数値化も、越谷市立病院では「見える化」「見せる化」ができるのです。
「導入してしまえば追加の保守費用もかからず、自分たちでどうにかできる」といったシステム面での特性や、「将来的な病床の再編などにも必要なデータを、求められる前から用意することもできる」といった提案型の業務を行えることも、『Waha! Transformer』と『Dr.Sum EA』導入の大きなメリットとなっています。